その後

私たちのような仕事は、話の9割は辛いお話なのですが。

しかも他人には聞かせられないような事だらけでして。

かといって、個人情報ですから他に漏らしてしまうことも出来ないし。

ですので、誰かに仕事の愚痴をぼやく時は必ず言うことがあります。

「問題があって、それをどうにかしようと考えている。だから

力を貸して欲しい」

ここまでは、わかる。

しかし、悩ましいのは

こちらには、その結果がほとんど知らされないことだ。

「その後、どうなったのか教えてよ」

ん、わかるかなーなんて知れた仲の人にグダをまく。

毎度聞かされる人生の裏側劇場(悲劇が多いが)の一場面ごとに

チョッとづつ自分の中の何かを傷つけているような気がするのよ。

若いころは、すぐに修復可能だったような気がするけど

歳を重ねると、そのスパンがかなり遅くなっていくような。

でね。

そんなような事を100個ぐらい修復してくれた方のお話なのだけど。

とある離島から18のときに出てきた農家の三男坊。

22の時に、こっちの少しヤンキーの女の子と結婚。

まもなく、長男と長女が産まれて。

両方の親に反対されていたので、なんの援助もしてもらえず。

けど、35の時に家を買った。

意地になっていたわけではないけど、家族を守ることにただ

必死なだけだったって。

あっという間に長男も高校生で、進路を決める時期に。

「半端な気持ちだったら進学しなくていい」とだけいっていたんだと。

成績は上のほうだったけど、親が家にいる時に長男が机に向かっている

事は一度だってなかったって。

だから、てっきり就職するのかと思っていたら。

11月のある日、薬科大の入学手続きの書類をもってきたんだって。

推薦をもらえて、奨学金の手配までしていて。

聞くと春から10箇所以上の薬科大を見学にも行っていたんだって。

開いた口が塞がらないほど、夫婦は驚いた。

最終的に選んだのは、自宅から通えるところの薬学部だったらしい。

私が、「どっちの頭が似たんだろうね」と聞きましたら

「未だに信じられなくて、先生には確認とったから本当だとは

わかったけど。身内にも、子供の同級生の親にも言えてないって」

長男が言うには、「夫婦とも仕事していたので、家にいる時ぐらいは

親のことかまってあげないとかわいそうかな」って。

まいったな。

ふと考えて

「とんび」っていうドラマ知ってる?

と聞きましたら

どうも言葉に詰まったらしく

声が震えてました。



これは、3月5日にあった実話です。