そういえば、今回は支持します

【正論】初代内閣安全保障室長・佐々淳行 日米正念場の北ミサイル対応
2009.3.25 02:24
 ≪無法“砲艦外交”許すな≫

 北朝鮮は4月4日から8日までの間に、「平和目的の人工衛星打ち上げ」と偽って、大陸間弾道ミサイルテポドン2号」を発射する公算大である。そして無法にも「(日米が)迎撃すれば戦争。報復的軍事攻撃を行う」と軍事的恫喝(どうかつ)を加えてきた。国際社会に対する許し難い挑戦であり、こんな北朝鮮の“砲艦外交”に屈したら、それは日本の恥である。

 麻生太郎総理は、発射中止を強く申し入れるとともに、毅然(きぜん)として、日本上空飛来の場合は、これを迎撃すると表明した。筆者は、この姿勢を全面的に支持する。

 だが官邸やマスコミでは、「もし本当に人工衛星だったら」とか「撃破すると危険物が日本に落下する」、あるいは「日本を飛び越してアメリカに向かうようであれば、撃墜することは集団的自衛権の行使につながる」といった、昔からの事なかれ主義の議論もきかれる。ミサイルの性能もよくわからないのに、「撃っても当たらない」という、初めからギブアップの敗北主義も横行している。

 なるほど、要地防空の、射程20〜30キロの航空自衛隊パトリオットIII型は届かないかもしれない。海上自衛隊イージス艦のスタンダード・ミサイルも、まだ2隻しか搭載されていない。ハワイ沖での実弾発射訓練でも、「こんごう」は標的にヒットしたが、「ちょうかい」は失敗した。命中率は50%である。射程も百数十キロだから、迎撃に失敗する恐れもたしかにある。

 ≪総理は事前に迎撃命令を≫

 しかし、日本のイージス艦の弾道ミサイル発射探知、軌道追尾の能力は世界一である。1998年8月31日、北朝鮮が無警告でテポドン1号を発射し、三沢上空で日本列島を飛び越し、アラスカ沖まで飛んだとき、米海軍はこれを捕捉できなかった。同月14日から夏休みを返上で緊急出動し、日本海上で忍耐強く約2週間、警戒配備に当たったイージス艦みょうこう」のみがただ1隻、ミサイル発射の火の玉を捕捉した。それを追跡し、推力、射角をコンピューターで解析し、それが北のいうような人工衛星でなく、大陸間弾道弾であることを証明した。

 今度は「撃墜」することだ。地球の引力に抗して垂直上昇する人工衛星ロケットの推力は、引力で放物線を描く大陸間弾道弾のそれとは比較にならないほど大きいといわれる。だが、その識別は難しい。「みょうこう」は、その至難の業を成し遂げたのだ。

 米海軍は海自のこの貢献を高く評価し、賛辞とともに「ミヨコによろしく」といってきた。いうまでもなくそれは「みょうこう」のことだった。麻生総理の決意表明は高く評価するが、自衛隊法第82条の2による「ミサイル迎撃」は総理の権限である。だが、撃墜許可の総理=防衛大臣命令が現場のイージス艦長に届くまでに、海幕長護衛艦隊司令官↓群司令と、指揮命令系統を経たのでは絶対に迎撃に間に合わない。テポドンは、発射後7分で日本上空に達するとみられる。

 垂直上昇を続ける人工衛星ロケットなのか、太平洋、アメリカに向かうミサイルなのかの判断は、時間どころか分秒を争う問題だ。従って、麻生総理は「ミサイルの場合は躊躇(ちゅうちょ)なく迎撃し、撃墜せよ。集団的自衛権云々(うんぬん)は論ずべからず、全責任は総理である私がとる」と、自衛隊法第82条の2第3項の「事前の権限委譲」に則(のっと)り、あらかじめ撃墜許可命令を下令しておかないといけない。さもないと超音速のテポドンの迎撃は不可能である。

 ≪米国民の感情悪化避けよ≫

 また、日本上空における迎撃は、まさに日米安保条約の試金石であり、日本の正念場である。1998年の場合には日本に迎撃能力が全くなかったから許されたが、今回は違う。

 もしも集団的自衛権の行使を躊躇するなど、テポドンが日本上空を通過してアメリカに向かうのを見送ったならば、オバマ新政権下のアメリカ国民の対日感情は一挙に悪化するだろう。

 危機管理では「大空振りの三振」は許されるが、「見逃しの三振」は許されないのだ。また、日本国民の間にたまりにたまった政府の弱腰外交に対するフラストレーションの爆発も懸念される。永田町・霞が関ではいま田母神俊雄元空幕長の人気が急上昇している事実を直視せねばならない。田母神氏も、それこそ制服の本分である「ミサイル迎撃」にこそ職を賭すべきであったと惜しまれる。

 いまやまさに、日米安保条約の相互信頼性が問われている。ヒラリー米国務長官オバマ政権発足後、真っ先に訪日し、14分14秒だったといわれる演説の中で「日本」を6回、「日米関係の重要性」を23回繰り返した。これがリップサービスだったのか否か、北朝鮮テポドン発射で日本を本気で守ってくれるのかどうか。

 日本海に展開している「レイクエリー」以下3隻の米イージス艦の対応も注目される。米国側の心底を確かめる好機でもある。

もっとマスコミは、取り上げるべきである。