実は貸金業法の問題であることは、経済通の一致した見方

ピーター・タスカ氏の日本株低迷「自業自得論」に納得
日本株」がおかしい。サブプライムローン震源地アメリカよりも、日本の株価が大幅に下落しているのだ。ピーター・タスカ氏(アーカス・インベストメント共同創設者)は、この事実を2月6日付の「ニューズウイーク」誌上で、「日本株低迷は自業自得だ」と厳しく指摘している。

 曰く「この状況は……『逆バブル』と呼べるかもしれない。……日本は消費の拡大を図るのではなく、円安と世界経済の成長という『カミカゼ』に頼ってきた。(略)グローバル市場は、各国にそれぞれ異なるメッセージを送っている。アメリカへのメッセージは、過剰な消費と借金頼みのパーティーは終わりにしようというもの。日本へのメッセージは資本主義の精神を復活させないかぎり、長期的な衰退は避けられないというものだ。この警告は、日本の政治家や官僚、企業経営者だけでなく、すべての日本人に向けられている」。

 彼の日本経済の分析力は、日経新聞の「マーケット・アナリストランキング」で5年間連続1位という事実が示す通り、定評のあるところで、傾聴に値する。

 タスカ氏の指摘は、まったくその通りだ。内需拡大という国内景気の浮揚策をなおざりにして、輸出産業に追い風となる「円安」方針を貫いて、ついにトヨタはGMを抜き、自動車産業という裾野の広い製造業分野で、世界1を目前にしている。しかしその半面、日本人の1人当たりの名目GDP(国内総生産)はOECD加盟国中、2000年の3位から、18位にまで急落してしまった。これは円の価値が落ちていることで起こったものであり、これにより、トヨタに強烈な「カミカゼ」が吹いて、絶好調なのである。一方、国内では格差が拡大し、個人も地方もひん死寸前だ。

 本当にこれでいいのか。内需拡大を高らかに謳った前川レポート(1986)の課題は、実現されないまま、早くも20年が経ってしまった。いったい内需拡大の火はどこへ消えてしまったのか。日本社会は、いつも同じ失敗を繰り返しているような気がする。

 エコノミストの野口悠紀夫氏は、近著「資本開国論」(2007年5月刊)で日本のリーダーたちに厳しい提案をする。それは、日本社会と日本企業は「コモデティの罠」に陥っているというものだ。論考の要旨は、自動車産業は近い将来、値下げ競争に陥りやすい産業であり、グーグルやマイクロソフトのような独占的市場を形成できる産業ではない。真の意味で資本を開国し、貯め込んだ資産の効率的、弾力的な運用を通じて、「脱工業化社会」を実現しなければならない、というものだ。

 最近、新興国インドの自動車産業が、30万円台の自動車を発売して話題になっている。また、中国の自動車メーカーも数年後には、トヨタを向こうに回して、ハイブリット車を発売すると発表するなど、追い上げは急である。実際、自動車産業は鉄鋼や造船などと同じく、インドや中国に追い抜かれる運命にあるというべきかも知れない。

 問題は、長すぎた「円安政策」を転換し、国内の景気を浮揚させるために、海外から資本が入ってくるように、「強い円」の政策を採ることではないだろうか。そのためにも、日銀総裁には、政府や自民党の圧力に屈しないタフな人物が是非とも必要だ。

 ところが、日本は表向きは市場開放を標榜しながら、実際の政策はマーケットの縮小につながるような規制ばかり行っている。だからこそ、日本株は、震源地のアメリカ市場以上に売られているのである。

 日本株が売られる原因の第1は、市場開放のかけ声とは裏腹に、官僚たちによって次々と進められる市場規制の数々だ。いま現在、日本の金融業界で最大の問題は、サブプライムローン問題ではなく、実は貸金業法の問題であることは、経済通の一致した見方だ。昨年暮れに施行された貸金業法により、金利規制と総量規制が同時に進行してしまい、マーケットに閉塞感が急速に広まっている。業者の倒産・廃業も急速に進んでいる。問題は、個人や中小企業に資金が供給できない状況があることだ。また、金融界全体を襲っている「過払い訴訟問題」が、日本の金融業界全体の重荷となってしまっている。

 貸金業法改正の切っ掛けとなった多重債務問題の解決は大切だが、拡大していた市場を規制強化によって潰しては、元も子もない。規制強化は、未曾有の貸し渋りを招来してしまったのである。

 特に、中小企業の倒産は増加しており、富山県の地元紙、北国新聞は、07年12月31日の社説で、「景気減速に棹さす恐れ」と貸金業法の施行に伴う規制強化に「再検討」を促す記事を掲載した。

 先出のタスカ氏も、「いわゆる『サラ金たたき』のせいで、多くの消費者は融資を受ける機会を失った」としている。北国新聞の社説は、地方の中小企業の窮状を考えた上の勇気ある発言で、政治家は重く受け止めるべきだ。

 「エコノミスト誌」2008年2月12日号は、貸金業法の改正にまつわる貸し渋りに言及し、「多重債務者発生抑制やヤミ勢力からの消費者保護を目的とした法改正だが、その副作用は決して小さくない」と結んでいる。

 次に「建築基準法改正」の問題がある。これは周知のように、いわゆる姉歯事件に端を発した「耐震強度偽装事件」の再発防止のために、07年6月から建築基準法が改正され、審査が厳格化されたことにより起こった問題である。審査の厳格化によって、混乱が続き、建築物が建たず、多くの中小業者が業績悪化に苦しんでいる。この状況を速やかに是正しなければ、業界全体が縮小し、廃業や倒産が続出する可能性がある。

 何か問題が起こると、規制によって官庁の役人ばかりが太っていくような社会では、リスクを負ってでもビジネスを起こそう、などとは誰も思わなくなるのではないだろうか。このような状況全体を、「エコノミスト」誌上で、島本幸治(BNPパリバ証券チーフストラティジスト)は、「官製不況という病」と呼んでいる。まさに、言い得て妙だ。

 タスカ氏は、この「官製不況という病」を治す処方箋は、「資本主義の精神を復活させる」ことと言った。私は、それに加えて、格差拡大の元凶とも言うべき、低い労働分配率を早急に是正することだ、と思う。

 資本主義は、かつて対立していた社会主義の思考を取り入れて、労働分配率の是正を受け入れて、生き残った。このまま、富の偏在が続けば、「日本人だけが知らないアメリカ『世界支配』の終わり」(2007年7月刊)の中でカレル・ヴァン・ウォルフレン氏が言うように、マルキシズムが「再び支持され、復権しつつある」ということが、現実に日本でも起こってくるかもしれない。

 日本社会の閉塞状況を一刻も早く打開するためには、かけ声ばかりの内需拡大外資導入ではダメ、ということだ。
(佐藤弘弥)

連絡協議会の方が紹介していた記事。
記事の中にもあるように、ピータータスカ氏は、日経新聞の「マーケット・アナリストランキング」で5年間連続1位。
よく当たる。

あー、官製不況

しかし、佐藤弘弥?誰?