【正論】政治評論家・屋山太郎 「天下り」温存の外資規制

 ■省益優先の「官僚内閣」で国滅ぶ

 ≪「国の安全」の隠れみの≫

 福田首相町村官房長官による外資規制は日本経済を危うくする。国内の株式市場の売買シェアの7割は外国人投資家に負っている。だからこそこれまで政府は外資に対して「対日投資の拡大」を呼びかけてきた。ところが国土交通省は羽田や成田の主要空港施設に外資規制をかけようと言い出した。政府がこうした閉鎖的姿勢をみせること自体危うい。当然、外資導入を叫んでいた渡辺喜美金融担当相、大田弘子経済・財政相、岸田文雄規制改革担当相らが「規制反対」の意見を表明した。どういうわけか甘利明経済産業相は沈黙。

 国交省が空港への外資規制を言い出した動機は2007年夏に、豪州のマッコーリーグループが羽田の日本空港ビルの20%近い株を買ったからだ。日本空港には元運輸審議官が天下り、途方もない給料をもらう一方、株主への配当は極端に少ない。マッコーリーは経営改善を求めている。外資に買われると天下りも拒否されかねないと恐れた国交省が打ち出してきたのが、空港施設への外資規制だ。

 成田国際空港会社は昨春、安倍官邸が黒野匡彦社長(元運輸次官)の留任を拒否して住友商事から民間人を社長に起用した。オープン・スカイを目指す安倍路線と運輸官僚の考え方に差があったからだ。それでも運輸官僚(国交省)は同空港会社に役員12人のうち5人もの常勤役員を押し込んでいる。「国の安全」を口実に外資規制をかけておけば、天下りのワクだけは確保できるとの思惑だろう。

 ≪空港にも電力にも横車≫

 この発想は「省あって国なし」そのものだ。外資導入という錦の御旗に背いても、天下りポストだけは確保したいという実に小さな動機で国策を考えるのが官僚根性だ。英国のヒースロー空港はスペインの資本、コペンハーゲンの空港は羽田と同じマッコーリーが持っている。資本は誰が持とうと有事の際には当該国の命令に従うという「行為規制」で十分なのだ。

 この官僚の横車、無知には驚いたが、さらに愕然(がくぜん)としたのは町村官房長官の「事務方がいま詰めているのだから閣僚は黙っていろ」との箝口(かんこう)令だ。これは(1)官僚がお膳(ぜん)立てをする(2)それを閣僚が追認する−という「官僚内閣制」の考え方そのものだ。こういう本末転倒の政治から脱却し「議院内閣制」を確立しようというのが、小泉、安倍以来この6年半の動きだった。町村氏は昔の小役人根性に先祖返りしているのだ。

 ことは空港規制だけにとどまらない。イギリスの投資会社ザ・チルドレンズ・インベストメント(TCI)ファンドは「Jパワー」(民営化前は電源開発株式会社)の株を10%弱持っているが、これを20%まで買い増したいと1月15日に届け出た。Jパワーは東証上場に当たって「利益も配当もふやす」と約束しながら、全く改善がみられず、TCIは昨年11月「役員賞与の支給停止、社外取締役の受け入れ」を求めてきた。

 電力分野は外為法の規制対象業種となっており、外資が10%以上買う時には届け出がいる。主務大臣が「国の安全」に反すると判断すれば中止命令を出すことができるが、TCIは国の安全を脅かすような会社ではない。にもかかわらず、経産省は「審査に3カ月要する」と決定を先延ばしした。この問題は瞬時に判断できる性質の問題だ。なぜ時間を稼ぐのか。経産省はかねてJパワーの生え抜きの社長が天下りの副社長を経営から遠ざけていることに不満を抱いてきた。社長を経産省で押さえるのが悲願で、これをめぐって目下内紛中である。

 ≪次官発言で株価暴落≫

 ここでTCIの買い増しを認めては社長への天下りなどは困難になる。かといって「買い増しは認めない」という理由も薄弱なうえ、空港規制と重なっては政府一体の外資排除とうけとられかねない。ここは時間を稼いでTCIが諦(あきら)めるのを待とうと考えたようだ。

 こういう思惑を秘めて、強烈な外資批判をぶち上げたのが経済産業省北畑隆生事務次官だ。経産関係の団体で講演し「デイトレーダーはバカで浮気で無責任」と強烈に批判した。とくに昨夏ブルドックソースを買いに出たスティール・パートナーズを名指しして「キリスト教の7つの大罪のうちかなりの部分がある」と述べたのに外国人投資家たちは大ショックを受けた。北畑発言が英文で流れた2月6日(日経ジャーナル)は646円も暴落し、「北畑ショック」といわれた。資本市場には良い資本も悪い資本も入ってくる。それを選別するのが経営だ。制度で守ろうという官制資本主義の考え方は捨てよ。(ややま たろう)